TABATAで向上する能力
TABATAでは時間短縮の他に
「無酸素性能力と有酸素性能力を同時に高める」
ということがメリットとして挙げられます
しかし、そもそも無酸素性能力・有酸素性能力とは何なのでしょうか?
例えば無酸素性能力と筋肥大の違いはなんでしょうか?
これらを疑問に思っているアクセスワードがあったので
少々噛み砕きすぎなぐらいに分かりやすく解説したいと思います。
既に知っている部分などは読み飛ばして頂いてもかまいません
まずTABATAで向上する無酸素性能力・有酸素性能力とはなにか?
これらを一言で言うと筋肉を動かすための能力です
筋肉を動かすために必要な能力はいくつかあって
・ATPを合成(再合成)する能力
・乳酸をたくさん貯められる能力
・筋細胞内外のイオン濃度を正常値に保つ能力(仮)
の3つが大きな要因です
ちなみにTABATAは3つとも向上させることができます
かなり長くなりますが一つづつ解説していきましょう
・ATPを合成(再合成)する能力
筋肉を動かすためにはATPというものが必要です
そしてATPを作る能力は
・酸素と炭水化物(または脂質)を使う有酸素性エネルギー供給機構
・グリコーゲンから乳酸とATPを作る乳酸性エネルギー供給機構
・クレアチンリン酸とADPからATPを作る非乳酸性エネルギー供給機構
の3つがあります
※ATPの材料について今回は特に触れませんが興味が有る方は調べてみてください
後ろの2つは酸素を使わないので
無酸素性エネルギー供給機構とひとまとめにされています
3種類もありますが
どれも目的は筋肉を動かすためのATPを作るということです
そして有酸素性でも無酸素性でも目一杯使うとATPを作る能力が伸びます
この目一杯の状態を有酸素性では最大酸素摂取量といい
TABATAでは最大酸素摂取量と無酸素性エネルギー供給機構を
最大限に刺激することを目的としています
さて、有酸素性能力を向上させるには
最大酸素摂取量に達する運動を行い
有酸素性エネルギー供給機構をフル活用してATPを合成させる必要があります
これは逆に言うと
最大酸素摂取量に達する運動を行えば有酸素性能力を向上することが可能
ということです
勿論TABATAはトレーニング中に最大酸素摂取量へ達する運動なので
短時間なのに持久力(長時間運動できる能力)が向上するわけです
ATPの合成に限った話では
実際に長時間運動をし続けることではなく
最大酸素摂取量に達するかどうかが重要ということになります
続けて無酸素性能力の向上を考えてみましょう
先に説明した通り無酸素性エネルギー供給機構には2つ種類がありそれぞれ役割が違います
それぞれの役割を説明する前にクエスチョンです
有酸素性エネルギー供給機構の上限は最大酸素摂取量ですが
無酸素性エネルギー供給機構の上限は何でしょうか?
無酸素性エネルギー供給機構の違いをもう一度載せましょう
・グリコーゲンから乳酸とATPを作る乳酸性エネルギー供給機構
・クレアチンリン酸とADPからATPを作る非乳酸性エネルギー供給機構
まず分かりやすいほうの上限から説明しましょう
非乳酸性エネルギー供給機構ではクレアチンリン酸が枯渇することでATPが作れなくなります
単純に材料がなくなることでATPが作れなくなるわけです
※ちなみに非乳酸性の反応のほうが乳酸性よりも速いと言われています
乳酸性のグリコーゲンや有酸素性で使う脂質は枯渇しないの?と思われるかもしれませんが
単純にクレアチンリン酸の量がすごく少ないから先に枯渇するというだけです
続けて乳酸性エネルギーの上限を考えてみましょう
実はここで
・ATPを合成(再合成)する能力
・乳酸をたくさん貯められる能力
・筋細胞内外のイオン濃度を正常値に保つ能力
という3つのうちの
・乳酸をたくさん貯められる能力
が関係してきます
乳酸の説明をする前に基本的なpHの話をしましょう
pHの値は7より下がると酸性、上がるとアルカリ性となり
人間の体液の pHは7.35から±0.05という弱アルカリに保たれています
pHは水素イオンというものが増えると酸性になります
そして乳酸は水に溶けると水素イオンになるので
乳酸が増えると筋肉は酸性に傾くということが分かると思います
pHは6.6も下がると筋肉は動かなくなりますが
ここに個人差はありません
どんな人でもpHが6.6になれば筋肉は動かなくなるので
個人差が出るのは動かなくなるまでの時間です
体の中には、ある程度水素イオンが増えても
それをクッションのように受け止める仕組みがあります
クッションのおかげでpHは急激に変化しません
この仕組みを緩衝といい
pHが6.6になるまでの時間が長い人はクッションを一杯もっています
そしてこのクッションを水素イオン緩衝タンパク質といいます
水素イオン緩衝タンパク質は
疲労困憊になるようなトレーニングを行うことにより増加します
つまりTABATAで増えます
ずいぶん遠回りをしましたが
乳酸性エネルギー供給機構の上限はpHが6.6まで下がること
というわけです
念の為にもう少し解説すると
・グリコーゲンから乳酸とATPを作る乳酸性エネルギー供給機構
とあるように乳酸性ではATPと一緒に乳酸を作ります
しかし乳酸は増えすぎると筋肉中のpHを下げて酸性にしてしまうので
6.6まで下がった時点で筋肉が疲労困憊で動かなくなってしまい
それ以上ATPを作ることはできない
乳酸性エネルギー供給機構を最大限利用するためには
・乳酸をたくさん貯められる能力
が必要となり、その能力は水素イオン緩衝タンパク質の多さとなり
疲労困憊になるようなトレーニングで増やすことができる
以上の説明で
・ATPを合成(再合成)する能力
・乳酸をたくさん貯められる能力
・筋細胞内外のイオン濃度を正常値に保つ能力(仮)
の上2つを理解していただくことができたかと思いますが
最後の
・筋細胞内外のイオン濃度を正常値に保つ能力(仮)
についてはまだ説明をしていませんので
もうちびっとだけ解説します
無酸素性能力について考えてみましょう
今までの説明ではクレアチンリン酸が枯渇せず
乳酸によって筋肉中のpHが6.6まで下がらない限り
無酸素性エネルギー供給機構は働くはずです
しかし、運動時間が一分以下の高強度な運動では
クレアチンリン酸が枯渇せず
乳酸濃度が最高値でなくとも疲労困憊になってしまいます
一体どういうことでしょうか?
※ここから先はあくまで仮説が提唱されているだけです
また、細胞単位の非常に細かい話がありますが
特に分からなくてもTABATAを行う上でまったく問題ではありません
細胞がきちんと働くには細胞内液のカリウムイオン濃度と
細胞外液のナトリウムイオン濃度が基準値でなければいけません
この基準値でスタンバイしているときに刺激を受けると
筋肉はちゃんと収縮し、カリウムイオンは筋外に出ていき
代わりにナトリウムイオンが筋内に流れ込んでくる
これを脱分極と言います(高校の生物で習ったかもしれません)
収縮が終わると
今度はATPを使って筋中にカリウムイオンを引き込み
筋外へナトリウムイオンを追い出して脱分極できる状態へ戻す
この機能をナトリウムカリウムポンプ(Na-K ATPase)と言います
Na-K ATPaseによって各イオン濃度が基準値になっていなければ
筋肉は新たに脱分極することができません
高強度の運動を考えてみましょう
脱分極でイオン濃度が変化しますが
Na-K ATPaseでイオン濃度が整う前に新たな刺激が来てしまったとすると
当然ながら脱分極(筋収縮)はできません
こういう状況に置かれた場合
たとえクレアチンリン酸が枯渇していなくても
pHが6.6まで下がっていなくても
筋肉は動かなくなってしまうというわけです
解決方法としてはNa-K ATPaseの能力を上げることが考えられます
より素早くイオン濃度を脱分極可能なまでに戻せれば
他の原因により動けなくなるまで筋肉を動かすことができます
このNa-K ATPaseはトレーニングによって増やせる
と書籍にはありますが詳細のほどは分かりません
筋肉が動かなくなる仕組み自体は仮説ですが
この話で重要なポイントは
・クレアチンリン酸の枯渇
・pHが6.6まで下がっていない(乳酸が最大まで溜まっていない)
の2つ以外でも疲労困憊になる可能性があるということです
※筋肉の収縮にはカルシウムイオンも関わってきますし
「水素イオンがカルシウムイオンの邪魔をして筋肉の収縮を妨げる」
というような話も聞きます
カルシウムイオンに関するメカニズムはまだまとめていませんが
血中カルシウムイオン濃度が低下すると筋肉は痙攣を起こすので
(テタニーといいます)
なんらかの因果関係はあるんじゃないかと思います
TABATAには直接関係があるかといえばそうでもないので優先順位は低いですがそのうちまとめたいと思います
あと身も蓋もない話ですが筋肉はわからないことが多いので仮説ばっかです
長くなりましたが
以上でTABATAで向上する能力の概要をお伝えできたかと思います
無酸素性エネルギー供給機構や有酸素性エネルギー供給機構の説明は
既に理解している方にはたいくつな話だったかもしれませんし
TABATAにチャレンジしたいだけの方にも面白い話ではないでしょう
しかし、既に動画でのトレーニング動作の解説や
個人の成長記録(効果のほど)などは世に溢れているので
「そもそも何がパワーアップできるの?」ということを
知りたい方向けに少しかみ砕いで解説をしてみました
今回の記事の細かい部分に興味を持たれた場合
ATPの詳細な合成手順については解剖生理の教科書、筋トレ本や関連ワードで検索すると深く掘り下げることができます
pHの緩衝系に関しては医療系のやさしい解説本を読むとより深く学べます
(検索すると看護試験対策の語呂合わせや難しすぎる解説が多いので大変かもしれません)
細胞の脱分極の手順などは文中にもありますが高校レベルの生物の教科書にも載ってるかと思います
ただ、どれも興味が無い場合はこの記事を流し読んで
「ふーん」程度でも良いかと思います
読まなくてもTABATAはできますし。。。
長い文章となりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました